おたくの文章

ミーハーです!

舞いあがれ

朝ドラ「舞いあがれ!」を面白く見ている。

私が物語作品の評価を決めるポイントは物語の終わり方がちゃんとしているかどうかという点なので、まだ自信を持って「舞いあがれ!が好きだ!」とまでは言えないが、それでも今のところは好感を抱いている。

 

なぜそうなのだろう、と考えると、「舞いあがれ!」には恋愛要素が少ないことが思い浮かんだ。

現在、ドラマ内の時間軸は2000年代初頭、主人公は18か19歳。もしこれが"普通のドラマ"で、主人公が"普通のヘテロセクシュアル"だとしたら、恋愛のひとつやふたつは経験していると描写されてもおかしくない状況だ。

私はすごく熱心な朝ドラ視聴者ではない(現にここ2年ほどは朝ドラ作品を見ていない)が、これまでに見てきた多くの作品では、主人公がだいたい中学生ぐらいの年齢にさしかかると、ヘテロの恋愛エピソードが差し込まれる傾向にあることが思い出される。恋愛エピソードがあると、NHK以外のメディアでも「〇〇の演技に胸キュン!」などと話題になることも多いので、脚本家の好み以外にもいろいろと事情があるのだろう。

ところが、この作品の主人公である舞がいま一番憧れ、心開いているであろう相手は、同性の由良先輩である。

しかも二人は、同じサークルの先輩後輩で、同じ人力飛行機パイロットを志願するライバルでもあり、ある女性が叶えられなかった夢を叶えようとするもうひとりの女性という関係である。急に表現が安っぽくて申し訳ないが、かなり胸熱な関係性だ。

舞は空を見上げて、空を飛ぶことにまっすぐだし、由良先輩はそんな舞の決意を、熱い眼差しで応援している。そのへんの男と胸キュン展開を繰り広げている場合ではないのだ。

そもそも、このドラマがいよいよ本筋に入ろうとしたサークル入部後の飲み会では、象徴的な会話がなされている。

サークル内の人間関係をあることないこと吹聴しようとする玉本に、佐伯が「なんですぐくっつけようとするんですか」と話すシーンだ。2000年初期にサラッとこの一言が出る佐伯、めちゃくちゃ偉いな……と感動してしまう。そして、このドラマは本来賑やかしく終わるだけであろうシーンで、「胸キュン展開まだ?」と期待する多くのヘテロフェチ達にストップをかけた。

舞も由良も、ほかのサークルメンバーも、(少なくとも今は)空を飛ぶことに夢中で、恋愛なんかしている場合ではないのだ。もっと大事なことがある!

このドラマは「〇〇の演技に胸キュン!」といった話題性よりも、もっと大事な本質を描こうとしているのがわかる。だからこそ、朝ドラの恋愛シーンを見ては「なんだこの男」「なんでそいつとくっつくんだ」「これはいったいなんの時間だ」と思ってしまう私のような視聴者でも、スルスルと物語に夢中になってしまうのだろう。

 

また、このドラマを見始めてすぐ、このドラマには「イヤな感じの男」がメインで登場しないことに気がついた。

ジャイアンのようないじわるの少年キャラも、天沢聖司のようなひねくれた男も登場しない。お隣さんの貴司くんは人のことをよく見ていて気遣いのできる子だし、五島の一太くんは人懐っこく、引っ込み思案の舞にも初対面から親切だった。なにわバードマンの男性陣も、みんな仲間と飛行機思いだ。唯一、兄の悠人にはひねくれ感が出ているが、今後なにかありそうな感じがして気になっているので、保留としたい。

物語作品では、女性がこの社会で生きるしんどさを表現するために、「イヤな感じの男」が手法として選ばれることも多い。でも実際には、「女性が生きるしんどさ」が常に具体性のある男の形を持っているわけではない。由良先輩のようにスポーツに夢中になっていても、いつの間にか活動の場がなくなってしまうこともある。(由良先輩が野球をやめたのは、決して体格の差という理由だけではないだろう。野球部女子マネージャーの元野球少年団率を考えれば……。)

だからこそ、女性がこの社会で生きるしんどさや、夢を実現することを描くのには、具体的な姿かたちのある「イヤな感じの男」と主人公が一対一で戦う描写だけが必ずしも重要なわけではない。優しさを持ったさまざまな人間の一人一人と手を取り合い、お互いにリスペクトをしあいながら生きていくことを描くことも重要なのだ。

 

私はフェミニストである。だが、フェミニストに対するステレオタイプのように「男性は敵だ」とは思っていない。私が嫌いなのは、権力だ。

このドラマは、主人公が持っていない特権性(舞が男性ならもっと簡単に航空学校の話ができただろうし、もっと早くにパイロットの夢に気がついただろう)も、主人公が持っている特権性(舞はパイロットを志ざせる身長に生まれ、たとえ小規模でも社長の娘で、これまでお金のことを気にすることなく生きてこられた)も描いている。この点も、私がこのドラマに夢中になる理由のひとつだろう。

 

次週予告では、心やさしい文学青年の貴司くんが苦しむ場面が多く描かれていた。「言葉が胸に詰まってうまく出てこない」状態の貴司くんが、どうにか自分を見つけられたらと思う。

まるで仕事ができないゆえにメンタルクリニックにかかった私は、来週しんどいかもしれない。

 

20221122追記

今週になってめ〜〜〜〜ちゃくちゃしれっと恋愛要素入れてきそうな雰囲気になって悲しんでいる。天沢聖司みたいな男(名前を覚える気すら湧かない)が出てきて……なんだこの安いドラマ! イヤ〜〜!!!

舞もなんか頼りない、あんまり友だちにはなりたくない感じの子になってしまって嫌だった。

倫子のあとをつけるシーンなんかは、家族と声を揃えて「人のプライベートを詮索するようなことはだめだよ!」とテレビに声をかけてしまった。

面接のシーンも、あまりのアリティの無さで驚きいた。面接は自慢話をする場所ではなく、面接の質問のうちに隠された本当の質問を見抜いて答える判断力と、質問に対して「本当に聞きたいことをハッキリ聞けや!」とは言わずに茶番を演じきる体制への従順さが求められる場所だ。

私は面接がめちゃくちゃ嫌いなので、面接のなんたるかを意識せずにコントシーンとして消費するその手付きにすらもイラつけるぞ。

 

そんなことよりも、舞が航空学校に合格したと知った時のなにわバードマンの皆の反応が見たかった。由良先輩はどんなふうに喜んでくれただろうか。

ああ、なにわバードマン……ああ、恋愛などというカスな社会システムを感じさせないあたたかな世界よ……。